非行少年A

2.5
何かに対して怒りを持った、頬に傷を負った表情の少年が、眉間にしわを寄せ遠くを見ている。いわゆる不良少年の表情がよく表現されている。 愛着の修復

一番の思い出は「逃げたこと」

繰り返してきた家出

私たちが預かったアツシは

家出を繰り返し、児童施設に入った。

その施設でも、何度もいなくなり、環境を変えるため私たちのホームに来た。

 

なんとか我が家に根付いてもらおうと

ほんの少しでも彼が関心を持っていることを見つけては

例えば彼が留学に興味があるといった時も

本を、チラシを、情報を集めては、それを見せて興味をもってもらおうとした。

関心があるように思えることがあると、すぐに調べ、話題を提供したし

興味を持つであろう体験をさせて、常に生活に意欲が向くよう注意していた。

 

落ち着いたように思えた

非行少年たちとの共同生活では

キーパーソンとなる者が及ぼす影響力が大きい。

 

アツシの「逃げる」というマイナスの影響力を抑えることは

共同生活そのものの安定にもつながることだった。

だから、逃げないことは、周囲にとってもプラスなのだ。

 

アツシは1年たっても逃げるそぶりひとつ見せず、

目標を持ち、完全に落ち着いた。  かのように見えた。

 

逃走

学年が上がり、非行傾向の強い友達ができた。

非行文化への憧れが残っていたのはわかっていた。

あれよあれよという間に、門限が守れなくなった。

ホーム内で反発をするわけではなかったが

だから余計に、これまでの関係性が嘘のように思え、強く虚しさを感じた。

気持ちが通じてないのか・・・、そう思った。

 

そしてある日、姿が見えなくなった。

 

少年院へ

2週間ほど行方不明だったが、本人から電話があった。

2週間の間に、万引きやバイクの窃盗、深夜の暴走行為、その他問題行動に手をそめていたという。

 

戻ってやり直したい、そう言った。

帰っておいでという言葉が出てこなかった。

 

これまでの1年半、入居前までの生活をリセットできるようにと

それはもう必死に彼に力を尽くしてきたという思いが沸き起こり

悔しいという思いが私の心をとらえ、怒りがこみ上げた。

 

「お前はこの1年半の関係をこんなに簡単に壊せたのか!」

と、私は言いました。

そのまま、児童相談所に行って今後を考え直せと。

 

たった一回の裏切りでも

取り返しのつかないほど人を傷つけることや怒らせることがあるということを伝えたかった。

様々な角度から再考された結果、彼はそのまま少年院送致となった。

 

ところで私は、自分の考えが正しかったのか自問自答の迷路に入ってしまった。

少年院に入ると手紙をくれる児童も多いのだが

彼からは一通もこなかった。

 

少年院に入って1年、突然の電話

1年が過ぎたころ

一本の電話が鳴った。

 

彼からだった。

昨日少年院から出たとのこと。

もう連絡がこないものとばかり思っていたので、うれしい反面、2年前の自分の決断もあり複雑な気持ちだったが、電話口の丁寧な応対もあって、近くのラーメン店で再開することになった。

 

たわいもない話が続いた。どこかぎこちなく。

以前より落ち着いたものの、基本的に明るい面は変わっていなかった。

私は核心的な質問をする前にこう尋ねた。

 

「何が一番思い出に残ってる?」

 

一旦、楽しかったであろう思い出を振り返り、その後で

あの時(2年前突き放した時)どう思った?

と聞いてみようと、そんな質問をした。

 

ところが、かれはすぐにこう言った。

少し思いつめた、けれど真剣なまなざしで

「・・・逃げたことです・・・」

 

「ずっと井上さんに手紙を書こうとしました。

でも、書いては破り、書いては破り、を繰り返しました。

絶対怒ってると思ったし、何を書いても許してもらえないとも思ったんで・・・

後悔していました・・・」

 

思いがけない言葉に絶句しました。

 

2年間、あの時突き放したことをやはり恨んでいるだろうか

と何度も考え、そうだろうと結論づけかけていたのが

今、彼は「逃げた」ということと、真剣に向き合っていたということを知り

逆に複雑な気持ちになった。

 

その後

その後、彼はなんと、偶然にも東北地方に出かけた際に

私たちのホームにいた年上の子と巡り合い

その子が経営する建築会社に就職することになったと連絡があった。

 

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